らしさのあした ブランディングをもっと身近に

ブランディングをもっと身近に感じてもらうために、さまざまな方と企業の「らしさ」についてお話しする『らしさのあした』。

前回に引き続き大川硝子工業所の大川岳伸さんとの対談をお届けいたします。
BINKOPの開発秘話を中心に、大川硝子らしさについて語っていただきました。

「伝えること」が「らしさ」を生み出す
──ブランドの魅力を伝える力 3-3

「伝えること」が「らしさ」を生み出す──ブランドの魅力を伝える力 3-3 01

① 時代の変化と自社の強みの交差点。「BINKOP」開発背景

坂本:
坂本:2023年にリリースされた「BINKOP」についても教えて下さい。大川硝子工業所の新たな看板商品といえますよね。
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BINKOP HPより引用
大川:
「ファミリア」などの成功も嬉しかったんですけど、やっぱり心のどこかで自分でいちから考えた、新しいびんを作りたいっていう気持ちがあったんです。とはいえ、社長にもなったし、見切り発車はもちろんできない。それに、考えれば考えるほどに、びんって出尽くしているなって思ったんです。機能面でも限界があるし、奇抜なデザインや形を追求すると、単純に使いにくかったりする。
坂本:
確かに差別化が大切なことは周知の事実としてありますが、実際にそれを見出すことは容易なことではないですよね。
大川:
それで、改めてうちの会社としての強みってなんだろうなって考えたんです。他のガラスびん問屋さんって、昔は「〇〇硝子」っていう名前だったのが、いつの間にか「〇〇容器」とかに変わってるところも多くて。要はガラスびんに限らず、ポリ容器も缶も取り扱うということですね。
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その一方で、うちは理由はどうあれ製造から卸売まで、ガラスびんにこだわり続けて100年以上続けてきたんですね。こんな会社ってなかなか他にはないと思うし、これを強みにしていかないといけないんじゃないかって思ったんです。
坂本:
自社の歴史を振り返り、改めてその独自性に着目したと。
大川:
世間的にもSDGsの波がきたりと、環境問題への意識の高まりも感じていて、リユース/リサイクルのできるガラスびんって一周回ってまた時代と合致するんじゃないかと思いました。

あるとき、海外でのガラスびん事情を調べてみたんです。翻訳ツールなどを使って頑張っていろいろな記事を読んでみたんですけど、マイクロプラスチックの問題もそうですし、一部のプラスチック製品から環境ホルモンが溶出するという実験結果があったりして、カナダやフランスでは厳しく制限をかけていたりすることがわかったんです。だからこそ、逆にガラスびんに注目が集まってると。
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これって僕が好きな音楽の世界でもよくあって。海外の流行りやトレンドが何年か遅れて日本に入ってきたりする。この脱プラな潮流もいつか日本に来るんじゃないかなと思いました。
坂本:
しかも、大川硝子工業所さんは100年以上ガラスびんに特化してきたわけですから、説得力や必然性もある。
大川:
あと、たまたま縁があって「530week」という環境問題について考え、発信する団体にも出会い、メンバーとして参加することになったり。そういった活動を通して賛同してくれる方も増えてきて、大川硝子の認知も広がったと思います。
坂本:
ブランドのストーリーや魅力の訴求に繋がったと。そこから「BINKOP」の発想が生まれたのでしょうか。
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大川:
はい。使用済みガラスびんはリサイクル用に回収され、工場で溶かして再成型するっていうことはもちろん知っていたんです。ただ、行政のゴミ出しルールだと、ガラスコップ、ガラス食器は「燃やせないゴミ」って書かれてるじゃないですか。これって何でなんだろうって、あるとき疑問に思ったんです。だって組成はガラスびんと一緒なのに、どうしてリサイクルできないんだろうって。それで問い合わせてみたんです。

すると、ガラス食器やガラスコップの場合、耐熱ガラスが使用されているケースもあって、そうすると工場で溶かすときに余計な成分が残留してしまうからだと。耐熱ガラスじゃなく、基本成分だけでできているガラス食器やコップは本当はリサイクルできるんですけど、それを回収時に判断するのが難しいから、こういうルールになっているということを教えてもらいました。
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HP より引用
これには納得すると同時に、なんかもったいないなと感じました。一方で、それならガラスびんと判断されるようなガラスコップを作ったらいいんじゃないかって思い付いたんです。

そこで今度はリサイクル業者さんに「ガラスびん」の定義をしっかりと教えてもらい、その条件を満たすガラスコップを作ろうと思いました。たとえばカップ酒容器だったり、プリンの容器も、コップとしても使えるような形があるじゃないですか。そういったものを参考にさせてもらいました。

自然な繋がりを生み出すブランディング

坂本:
発想の転換が素晴らしいですね。そしてそこに至るまでのストーリーも自然と繋がっている。
大川:
そういう意味では、デザイン面でも不思議な縁というか、偶然の出会いがあって。ポップアップストアでうちの商品を見て、気になっていたというイタリア人デザイナーがたまたま連絡をくれて。話をしてみたら、実はプロダクトデザインを手がけていると。そこで「今、こういう商品を企画していて」って説明したら「ぜひうちの会社でやらせてほしい」って言ってくれて、トントン拍子に話が進みました。
坂本:
我々がパートナー企業さんにブランディングの必要性についてご説明するときに、大事な要素のひとつとして「人が集まる」ということをお話するんです。自分の考えやイメージを発信して、いろいろなところとコミュニケーションを取っていくうちに、その考えやセンスに賛同する人たちが集まってくる。その輪を少しずつ広げていくことこそが、事業を成功に導く近道なのだと。お話を聞いていて、大川さんはまさにその通りのことを、狙ったわけでもなく自然に実践されてきたんだなと感じました。
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大川:
そう言ってもらえて嬉しいです。なんというか、自分の人生は上手くいかないことばかりで、それこそ30代半ば頃までは「自分がダメだから」とか「努力が足りないのかな」っていうことばかり考えていました。自分なりに考えていることはあっても、それをなかなか形にできなかったというか。

それでも試行錯誤を続けていたら、この10年くらいで「なんとなく気が合うな」とか「あ、君もそのタイプ? わかるわかる!」っていう感じで、仲間と呼べるような人たちと出会うことができた。そういう繋がりは大事にしていきたいし、自然と仕事に対する向き合い方も変わってきた気がします。
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自社に対する解像度が上がった

坂本:
図らずも好循環が生まれていたと。これは僕個人の反省なのですが、ついついブランディング、リブランディングについて考えると、何か新しいことをやったり、これまでのイメージを刷新することに意識が向いてしまいがちで。弊社も150年以上の歴史があるので、そこで築き上げた資産に改めて向き合うことがとても大事なのではないのかなと、今回のお話を通して感じました。
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大川:
お役に立てたのならよかったです。ただ、うちは本当に偶然というか、単純に予算がなかったから過去の資産を活かすしかなかったというだけで(笑)。もし業績が好調だったら、「ファミリア」や「BINKOP」のような企画は思いつかなかったかもしれませんね。
坂本:
「怪我の功名」というか(笑)。ちなみに、大川さんのリブランディング的な施策を経て、社内の雰囲気などは変わりましたか?
大川:
どうでしょう......自分ひとりで好き勝手に動いてるから、ちょっとわからない部分もあるのですが(笑)、ただ自社に対する解像度が上がったというか、自分たちの会社について見直す機会が増えたのは間違いないと思います。あと、新しいお客様も増えたので、それは自然と社内の雰囲気にも影響しますよね。
坂本:
最後に、来年以降の動きについて何か計画していることがあれば教えて下さい。
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大川:
来年は「地球びん」(ファミリアシリーズのひとつ)が50周年を迎えるので、いろいろな人を巻き込んで面白いことをやろうと画策しています。

あとは海外に対するアプローチをもっと積極的にやっていきたいですね。2023年にはオーストラリアでポップアップストアを開催したんですけど、3月末にはロンドンでもポップアップが決まっていて。海外にはどんどん発信していきたいですね。
坂本:
今後のご活躍も楽しみにしています!
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【あとがき】

とてもオープンで明るい雰囲気の大川さん。
小さな会社だからこそ、大川さんのパーソナリティがそのまま会社の雰囲気を形づくっているのでしょう。いつも楽しそうに仕事に向き合う姿は、大川硝子らしさそのものだと感じました。
その「らしさ」に惹かれて一緒に仕事をしている方々も、きっとどこか似た雰囲気なのだろうなと想像できるほど、大川さんの明るさは自然体で、嘘のないものだと思います。

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特に、BINKOPのプロダクトデザイナーさんとのお話は、デザインを生業にしている私たちにとってもとても興味深いものでした。 請け負う側がそのブランドをどれだけ好きで、どれだけ正しく理解しているか。この視点は、自社のエゴに偏らない「正しい提案」をする上で欠かせない要素だと、改めて気づかされました。

また、ブランディングを進める際には、どうしても社内の意見だけで進めがちですが、「自社らしさ」を考える上で、社外の人たちの意見に耳を傾けることはとても大切です。自分たちの強みは、意外と自分たちでは気づきにくいもので、我々も仕事の中で何度も感じている部分でもあります。

我々はブランディングにおいて最も大切なのは、「コミュニケーション」だと考えます。自分たちは何をどのように伝えたいのか。そういったことを社内外問わず多くの人と対話を重ねることで、自分たちの現在地を知り、さらに前へと進んでいけるのではないでしょうか。

「伝えること」が「らしさ」を生み出す──ブランドの魅力を伝える力 3-3 14

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